天親菩薩(世親菩薩)とは

世親菩薩
天親(世親)菩薩

天親菩薩(てんじんぼさつ)は世親菩薩(せしんぼさつ)ともいわれるインドの高僧です。
非常に重要なことを教えられたので、親鸞聖人は七高僧の2番目にあげて大変尊敬されています。
親鸞」というお名前は、天親菩薩から「」の一字を頂かれたほど、親鸞聖人は天親菩薩に親しみをもっておられます。
一体どんな方で、どんなことを教えられたのでしょうか?


天親菩薩とは

天親菩薩(てんじんぼさつ)はお釈迦さまがお亡くなりになって約900年後にインドに現れられた方で、世親菩薩(せしんぼさつ)ともヴァスバンドゥ(婆薮般豆)ともいわれます。
親鸞聖人も、天親菩薩とも世親菩薩とも婆薮般豆菩薩ともいわれていますが『正信偈』には天親菩薩といわれています。

親鸞聖人は、「天親菩薩が真実の仏教を明らかにしてくだされたなればこそ、親鸞は救われることができたのだ
と、お名前から「」の一字をもらわれるほど、非常に尊敬しておられます。
ところが、最初は真実の仏教である大乗仏教をそしるような人だったのです。

天親菩薩の小乗仏教での活躍

天親菩薩は、4世紀頃、北インドの建陀羅国のバラモンの家の次男として生まれられました。
お兄さんは無著菩薩(むじゃくぼさつ)といって、後に龍樹菩薩と並んで41段の悟りを開いたすぐれた人でした。

天親菩薩ははじめ、小乗仏教(上座部仏教)で当時最も有力だったグループである説一切有部(せついっさいうぶ)の僧侶について出家しました。
そして、説一切有部の教義を集大成した膨大な『大毘婆沙論(だいびばしゃろん)』を研究し、名声を博しました。
大毘婆沙論』は漢訳で200巻もある膨大な書物なので、それを天親菩薩がまとめられたのが『倶舎論(くしゃろん)』30巻です。
倶舎論』は日本でも昔の僧侶は全員学んだほどの重要な仏教書となりました。
こうして天親菩薩は、小乗仏教の僧侶として500部もの書物を著し、大乗仏教を批判していました。

お兄さんの無著からの手紙

ところがお兄さんの無著菩薩は、最初はやはり小乗仏教で出家したものの、大乗仏教も学んでみると、大乗仏教の教えのすぐれていることを知り、すでに大乗仏教に転向していました。
そして弟が大乗仏教を学びもしないで批判ばかりしていることに心を痛めます。
ことある毎に、
お前も大乗仏教を聞いてみろ、お前の考えているのと全然違うから
といって勧めます。
ところが天親は
人が何を信じようと自由じゃないか。そんなに大乗仏教の話をするなら、もうおれは出て行く
と出て行ってしまいました。

真実の仏教を謗るのは、謗法罪といわれる、五逆罪よりも恐ろしい罪ですので、
死ねば最も苦しみの激しい無間地獄へ堕ちなければなりません。
気に病んだ無著は何とかして弟を救うことができないかと悩んだ末、弟に手紙を出します。
実はおれは病気になってしまった。病院で診てもらったらもう助からない。
このまま死んでいくと寂しい。最後にちょっとでいいから、顔を見せてもらえないか

天親菩薩の後悔

手紙を受け取った天親は
なんだもう死ぬのか、それなら最後くらい顔を出しておくか
と帰ってきました。
ところが家に近づくと、無著菩薩が大きな声で熱烈に説法をしているのが聞こえてきます。
なんじゃそれ?
と思った天親は、説法が終わるのを待って、無著のところへ怒鳴りこみます。
兄さん、どこが危篤なんですか。大乗仏教では、をついてもいいんですか
「おお弟よ。よく帰ってきた。
あの手紙は嘘ではない。
病気というのは、肉体のことではなく、心のことなのだ。
お前が真実の仏教を謗り続けて、無間地獄に堕ちると思うと心配で心配で夜も眠れないのだ。
どうか聞いてくれ

「兄さんがそこまで言われるなら、勉強になることも少しはあるかもしれません。
聞かせてください
と天親が言うと、喜んだ無著は真剣なまなざしで、夜を徹して話をしました。
天親も、兄がこんなに真剣に話をするとなると、ひょっとしたら自分が間違っていたかなと思い始めます。
聞いて行くうち、すべての人が救われるただ一本の道である大乗仏教の尊さが知らされ、
同時に、それを謗る謗法罪の恐ろしさが知らされます。

深く前非を悔いた天親は、台所で刃物を取ってきます。
驚いた無著菩薩が「何をするのか」と聞くと天親は、
真実の仏教を謗り続けたこの舌を切ってお詫び致します
と命を絶とうとしました。
何を言うか天親、そんなことをしても死ぬだけだ、罪が消えるわけではない。
そんなことよりも、その舌で真実の仏教を伝えるのだ

こうして天親菩薩は、無著菩薩から大乗仏教を学ぶようになり、やがて大乗仏教の教えに救われると、お兄さんの無著菩薩を追い越して、親鸞聖人から七高僧の2番目にあげられるまでになったのです。

では天親菩薩は、大乗仏教によってどのように救われたのでしょうか?

天親菩薩の体験告白

天親菩薩は生涯にわたって、ものすごい勢いで説法もされ、著作も残されました。
大乗仏教の本も500部書かれ、小乗仏教時代の500部と合わせて全部で千部にものぼるので「千部の論主」といわれます。
中でも有名な、人間の心の働きを詳しく解明した「唯識(ゆいしき)」を明らかにされた『唯識二十論』や『唯識三十頌(ゆいしきさんじゅうじゅ)』など、すぐれた著作がたくさんありますが、主著は晩年の『浄土論』です。
浄土論』の冒頭に、天親菩薩は自らの救われた体験をこう告白されています。

世尊、我一心に、尽十方無碍光如来に帰命したてまつる
(浄土論)

世尊」とは、お釈迦さまのことです。
」というのは天親菩薩のことでてすから、天親菩薩はお釈迦さまに対して信仰告白をされているのです。
お釈迦さま、この天親は、一心に、尽十方無碍光如来に帰命いたしました
ということです。
尽十方無碍光如来(じんじっぽうむげこうにょらい)」とは、阿弥陀如来のことです。
帰命」とは救われた、助けられたということですから、天親菩薩は、一心に阿弥陀如来に救われた、と自己の体験を告白されているのです。
そして「一心」とはどんなことかを教えられたのが『浄土論』です。

この『浄土論』の最初のお言葉を、親鸞聖人は『正信偈』にこう教えられています。

天親菩薩は論を造りて説かく「無礙光如来に帰命したてまつる」と。
正信偈

」とは『浄土論』のことです。
天親菩薩は『浄土論』を書かれて、「阿弥陀如来に救われました」といわれている、と教えられています。
天親菩薩の教えられた通り、親鸞聖人も『正信偈』の最初に「無量寿如来に帰命したてまつる」といわれ、阿弥陀如来に救われました、と喜んでおられます。

では天親菩薩の「一心」とはどんな教えだったのでしょうか?

天親菩薩の偉大な業績

阿弥陀仏は「すべての人を必ず救う」とお約束されています。
これを「阿弥陀如来の本願」といいます。
ではどのように救うと約束されているのかといいますと、「三心」を約束されています。
三心」とは、
至心(ししん)」と
信楽(しんぎょう)」と
欲生我国(よくしょうがこく)」の3つの心です。

至心」とは、まことの心ということで、心の闇が破れた大安心の明るい心です。
欲生我国」は、我が国に生まれられると欲(おも)う心で、いつ死んでも極楽参り間違いなしという大満足の楽しい心です。
この三つの心にしてみせると阿弥陀仏はおっしゃっています。
これを「本願の三心」といいます。

阿弥陀仏はできるだけ詳しく自分の気持ちを言った方がみんなわかってもらえるだろうと三心を誓われているのですが、3つの心といわれると、私たちのような愚鈍な者は誤解して間違っていく人があります。
そこで天親菩薩は、私たちが受け取りやすいように「至心」と「欲生我国」を「信楽」の一心におさめて、
阿弥陀仏が私たちを信楽に助けるとおっしゃっているんだ
と明らかにされたのです。
信楽」とは、絶対変わらない大安心・大満足の、絶対の幸福のことです。
阿弥陀仏は「すべての人を必ず絶対の幸福に救う」とお約束されているのです。

3つあると
どれから先に受け取るのだろう
どのように受け取ればいいのだろう
と色々迷うのですが、1つであれば、迷うことはありません。
天親菩薩が信楽の一心で教えてくだされたので私たちは非常に受け取りやすくなったのです。

なぜ天親菩薩はこんなことができたの?

この天親菩薩しかなしえなかった業績を、親鸞聖人は『正信偈』にこう讃えられています。

広く本願力の廻向に由りて、群生を度せんが為に一心を彰したまう。
正信偈

群生を度せんが為に一心を彰したまう」の「群生(ぐんじょう)」とはすべての人のことです。
この中に入らない人はありませんが、私たちはあまり利口ではないので、群生といわれています。
群生を度せんが為に」とは、私たちを何とか阿弥陀仏のお約束通りに導く為にということです。
一心を彰す」とは、天親菩薩は私たちを導くために一心で彰(あらわ)されたということです。
その一心とは信楽のことです。

こんなことは、阿弥陀仏のお力によらなければ、とてもできることではありません。
それで親鸞聖人は『正信偈』に「広く本願力の廻向によりて」といわれているのです。
本願力」とは、阿弥陀仏のお力のことです。
廻向」とは、差し向けるとか与えるということで、親鸞聖人が廻向と言われたら、阿弥陀仏から私たちが与えて頂く、阿弥陀仏からの頂き物です。
ですから、「広く本願力の廻向によりて」とは、まったく阿弥陀仏のお力を頂かれて、はじめて信楽の一心を明らかにされることができたんだ、ということです。

天親菩薩も阿弥陀仏に救われて、阿弥陀如来の御心を、このように分かりやすく明らかにしてくだされた。
そのおかげで親鸞は阿弥陀仏の御心を知らされ、絶対の幸福に救われることができたのだ。
どうかみなさんにも天親菩薩の教えを知ってもらいたい

と喜ばれ、紹介されているのです。

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